マイルド焼結とLiF保護の融合:全固体電池の寿命を2700サイクルへ延ばす新技術

Battery主要部材

本研究は、全固体電池(ASSB)の実用化において最大の障壁となっている「リチウムデンドライト(樹枝状結晶)の貫通」と「界面の不安定性」を、固体電解質の熱処理とリチウム表面の保護という2つのアプローチの相乗効果で解決した画期的な成果です。


全固体電池におけるリチウム金属サイクルの強化:マイルド焼結と表面不動態化の相乗効果

1. 研究の背景と目的

次世代のエネルギー貯蔵技術として期待される全固体電池(ASSB)は、可燃性の液体電解質を固体電解質(SE)に置き換えることで、高い安全性とエネルギー密度(500 Wh/kg以上)の両立を目指しています。 しかし、主流のアルギロダイト型固体電解質である Li6PS5Cl (LPSCl) を使用する場合、以下の課題がありました。

  • デンドライトの浸透: 電解質ペレット内部の微細な孔を伝ってリチウムの結晶が成長し、短絡(ショート)を引き起こす。
  • 不安定な界面: リチウム金属と電解質が反応し、抵抗の高い層(SEI)が成長し続けることで性能が低下する。

2. 提案された相乗的戦略

本研究では、以下の2つの手法を組み合わせることで、これらの課題を同時に解決しました。

A. 固体電解質(LPSCl)のマイルド焼結

  • プロセス: 冷間プレス後のLPSClペレットを、80度の低温かつ50 MPaの圧力下で6時間処理。
  • 効果:
    • ペレットの緻密化(多孔性の低下)と表面の均一化。
    • イオン伝導率が 0.58 mS/cm から 0.96 mS/cm へ向上。
    • デンドライトが通過できる経路を物理的に封鎖。
  • 注意点: 100度以上の処理では表面酸化(LiOH等の形成)が進み、逆に抵抗が増加するため、80度が最適とされました。

B. リチウム表面のフッ化リチウム(LiF)不動態化

  • プロセス: 電子ビーム蒸着法を用い、50マイクロメートル厚のリチウム金属表面に 65 nm の薄いLiF層を形成。
  • 効果:
    • LiFの高い界面エネルギー(73.28 meV/A2)と低い電子伝導性(10-11 mS/cm)により、電子の漏れをブロック。
    • 電解質の分解を抑制し、安定な界面(SEI)を維持。

3. 主要な実験データと成果

この二重の改良により、電池の耐久性と出力特性が飛躍的に向上しました。

  • 臨界電流密度(CCD)の倍増: リチウムが短絡せずに流せる限界電流が、未処理の 1.1 mA/cm2 から 2.2 mA/cm2 へと2倍に向上しました。
  • 対称セルでの長期安定性: 1 mA/cm2、1 mAh/cm2の高負荷条件下で500サイクル以上の安定動作を確認(未処理品は即座に短絡)。
  • フルセル(NCM811正極)での実績:
    • 2700サイクル以上の超長期寿命を達成(1 mA/cm2)。
    • 1500サイクル後でも初期容量の 75% を維持。
    • 急速充放電(1.5 mA/cm2)においても450サイクル以上の安定性を維持。

4. 技術的な補足:化学組成と反応

本研究で分析された主要な化学式および関連物質は以下の通りです。

  • 固体電解質: Li6PS5Cl (LPSCl)
  • 正極材: LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2 (NCM811)
  • 界面保護層: LiF (フッ化リチウム)
  • 電解質の分解副産物(抑制対象): Li2S(硫化リチウム)、LiCl(塩化リチウム)、Li3P(リン化リチウム)
  • 表面酸化物(過剰焼結時に発生): LiOH(水酸化リチウム)、架橋硫黄種(P-S-S-P)

5. 結論と意義

この研究は、単に電解質の密度を上げるだけでなく、リチウム金属との界面を化学的に保護する「二段構え」のアプローチが、実用的な全固体電池の実現に不可欠であることを証明しました。特に、80度という比較的低い温度での処理と、nm単位の極薄保護層の組み合わせは、将来の大規模製造プロセスにおいても応用しやすい現実的な手法と言えます。

出典:https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202521791

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