4000サイクル超安定:ポーラスTe結合層による準全固体リチウム金属電池のデンドライト抑制技術

Battery主要部材

本研究は、次世代電池として期待される準全固体リチウム金属電池の長期安定性という主要な課題を解決するために、ポーラス(多孔質)なテルル(Te)とカーボン(炭素)を基材とする多層負極インターレイヤーを提案するものです。この多層構造により、リチウムデンドライト(樹枝状結晶)の形成を効果的に抑制し、長期サイクル安定性を大幅に向上させました。

1. 開発背景と技術的課題

  • 目標: 商用のリチウムイオン電池(LIBs)の安全性とエネルギー密度の上限を打破するため、固体酸化物電解質を用いたリチウム金属電池(全固体電池)が注目されています。
  • 準全固体電池の利点: 酸化物固体電解質と、高負荷正極およびイオン伝導性液体(通常は不燃性)を組み合わせることで、高い安全性とエネルギー密度を実現できます。
  • 最大の問題点(デンドライト形成): リチウム金属負極と固体電解質(Li metal/Solid Electrolyte: SE)の界面における不安定なリチウムの充放電(析出/溶解)により、リチウムデンドライトが発生し、電池の短絡や容量劣化を引き起こします。
  • 界面の課題: 不均一な電流分布や、Liストリッピング(溶解)時のボイド(空隙)形成がデンドライト形成を加速させます。特に、固体の酸化物電解質とカーボン層の間の密着性確保が困難です。

2. 新規負極インターレイヤー(Te/Ag-C)の設計戦略

従来のAg-Cインターレイヤーでは、Agが充放電サイクル中にLiと合金化する傾向が強く、界面から消失することで長期的な安定性が損なわれていました。そこで本研究では、以下の設計戦略に基づき**テルル(Te)**を新しい結合層として採用しました。

2.1. 結合層の材料選定(Teの選定)

  • 理論計算(MLIP-MD/DFT): リチウムと容易に合金化しない元素を探るため、機械学習型原子間ポテンシャル分子動力学(MLIP-MD)シミュレーションを実施。
    • Agの場合: Liと完全に混ざり合いやすく、Li層中に拡散することが確認されました(Ag損失の裏付け)。
    • Teの場合: Liとの合金化が飽和し、Li2Te相がLi相と分離した二相構造を維持。これにより、TeはAgに比べてLiに対して移動性が低い(イモビルな)材料であることが示されました。
    • Li取り込み量の比較: Sn(4.4 Li/Sn)と比較し、Te(2 Li/Te)はLi取り込み量が少なく、充放電中の体積変化を最小限に抑えられます。
  • 接着性の向上(DFT計算): 密度汎関数理論(DFT)計算により、固体電解質(LLZTO)とカーボン間の接着仕事量(-0.33 J/m2)に比べ、LLZTOとTe間の接着仕事量(-1.34 J/m2)が大幅に高く、Teが優れた結合層として機能することが確認されました。

2.2. ポーラス構造の導入(高速Li輸送の実現)

  • 課題: TeはLi拡散速度が遅い(拡散係数 10^-14~10^-15 cm2/s)という欠点があります。
  • 解決策: Li2Te表面でのLi拡散の活性化障壁は70 meVと非常に小さいことが計算で示されました。この表面での高速拡散を利用するため、ポーラス(多孔質)なTe層を導入しました。
  • 作製方法: LLZTO表面にスパッタリングしたGeTe膜からGeを選択的にエッチングすることで、約40 nm厚のポーラスTe層を形成しました。
  • 効果(in-situ観察): 電子線照射(充電過程を模擬)とイオンビーム照射(放電過程を模擬)によるその場(in-situ)分析により、ポーラスTe層は密なTe層よりもLi/Te原子比の変化が速く、Li輸送が促進されることが実証されました。

3. 準全固体電池の電気化学性能

LLZTO(Li6.4La3Zr1.7Ta0.3O12)固体電解質、Te/Ag-C多層負極インターレイヤー、およびイオン伝導性液体を含浸したNCA811(LiNi0.8Co0.1Al0.1O2)正極を用いてセルを構築しました。

  • 長期安定性: 25 °C、2.2 mA/cm2という高電流密度下で、4000サイクル後も80.1%の容量保持率99.7%のクーロン効率を達成。
    • これは、従来のAg結合層を用いたセルの性能(1.6 mA/cm2で800サイクル)を大幅に上回るものです。
    • 4000サイクル後のSEM観察でも、Te層がLLZTO/Ag-C界面に残存しており、界面の安定化とボイド形成の防止に貢献していることが確認されました。
  • 界面抵抗: セルの初期界面抵抗は約 12 Ω cm2で、従来のAg/Ag-Cインターレイヤーの報告値(32.5 Ω cm2)よりも低く、Liの析出/溶解反応の速度向上が示されました。
  • 正極の耐久性: NCA811正極にイオン伝導性液体(2 M LiFSI in EMIFSI)を使用することで、4000サイクル後もLIBsに用いられる炭酸系電解液と比べて遜色ない高い容量保持率を示し、イオン液体が正極/液体界面の劣化(遷移金属溶出など)を効果的に抑制していることが示唆されました。

4. 実用化に向けた大型セルでの実証

  • 大型ポーチセル: 36 cm2の大型LLZTO固体電解質と、3.2 mAh/cm2のLCO正極(総容量100 mAh級)を使用し、ポーチセルを構築しました。
  • 性能: 0.5 Cレート(85 mA/g)で400サイクル以上の安定した動作を実証し、設計容量(約95 mAh)を維持しました(動作温度45 °C)。
  • 意義: この100 mAh級セルの実証は、本技術が電子機器や電気自動車用の高容量バッテリーへの応用可能性を持つことを確認するものです。
  • 安全性: 完全に充電された正極をブタンガストーチの炎に直接さらしても発火しない高い安全性も確認されました。

5. 結論

Teを結合層として用い、ポーラス構造を持つTe/Ag-C多層負極インターレイヤーを導入することで、準全固体リチウム金属電池の最大の課題であった長期サイクル安定性が大幅に改善されました。このインターレイヤー設計は、将来的な高エネルギー密度・高安全性のリチウム金属電池実用化に向けた重要な進歩です。

出典:https://www.nature.com/articles/s41467-025-66308-4

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