本研究で開発されたフッ素化準固体ポリマー電解質は、HFAモノマーをin situ重合(その場での重合)させることで作製されました。電解質の液体前駆体溶液の主要な組成は以下の通りです。
| 成分 | 役割 | 組成(モル比) |
| HFA (2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブチルアクリレート) | ポリマーモノマー(骨格) | 最終溶液のモル比の25% |
| MTFP (メチル 3,3,3-トリフルオロプロパノエート) | 溶媒(可塑剤)、主なイオンキャリア | LiFSIとFECとの混合物(モル比 9:1) |
| FEC (フルオロエチレンカーボネート) | 溶媒、Li金属負極の安定化添加剤 | LiFSIとMTFPとの混合物(モル比 1:9) |
| LiFSI (リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド) | リチウム塩(電解質) | 1 M濃度で溶解 |
この組成の液体前駆体をセルに注入後、熱(60度Cで2時間)を加えることでHFAが重合し、液相(約55%)を閉じ込めた自立型の準固体膜が形成されます。
💡 技術の核心:フッ素-酸素共配位のメカニズム
この電解質が幅広い温度範囲で安定動作する鍵は、HFAのフッ素基によって実現されるフッ素-酸素共配位構造にあります。
- 低温性能の向上: HFAのフッ素(F)置換基が、リチウムイオン(Li+)とポリマーのカルボニル酸素(C=O)間の結合を緩めます。これにより、Li+の脱溶媒和活性化エネルギーが低下し、低温でもLi+の輸送がスムーズになります。結果、-40度Cで0.27 mS/cmという高いイオン伝導率を実現しました。
- 熱・界面安定性の確保: HFAやMTFPといったフッ素化成分の導入は、電解質の難燃性を向上させるとともに、リチウム金属負極上に均一で強固なSEI膜(固体電解質界面)の形成を促進します。この安定した界面が副反応を抑制し、熱暴走の開始温度を142度Cまで引き上げ、安全性を大幅に改善しています。
📊 性能特性と応用
| 項目 | 性能値 | 応用上の意義 |
| 動作温度範囲 | -50度C 〜 70度C | 極寒地、航空宇宙、または高温環境下での高い信頼性が求められる。 |
| 高レート性能 | 10 C | 急速充電・放電が可能。高レートサイクル後も**70.5%**の容量を維持。 |
| 長期安定性 | 200サイクル後 86% 容量維持 | 実用的な条件下(高負荷正極とリチウム金属負極)での長寿命化に貢献。 |
また、この設計原理はナトリウムイオン電池システムにも適用され、同様の広い温度範囲での安定動作が実証されています。これは、次世代の固体電池技術への汎用性の高さを裏付けています。


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