原子レベルのブレイクスルー:アルミニウムで高ニッケルカソードの寿命を劇的に延長

Battery主要部材

浦項工科大学(POSTECH)の研究チームは、電気自動車(EV)の航続距離を延ばすために不可欠な高ニッケル正極が抱える深刻な課題、すなわち充放電サイクルにおける急激な容量低下の根本原因を特定し、その解決策として少量のアルミニウム(Al)添加が極めて有効であることを発見しました。

📝 記事の要点

項目詳細
研究機関浦項工科大学(POSTECH)材料科学工学科・バッテリー工学科(パク・キュヨン教授ら)
対象技術EVバッテリーに使われる高ニッケル正極材料
根本的な課題高ニッケル化によるエネルギー密度向上と引き換えに、充放電サイクルで容量が急激に低下する。
劣化のメカニズム充放電プロセスで格子構造に歪みが発生し、これにより**「二重酸素リガンドホール」(酸素ホール)**と呼ばれる欠陥が形成され、格子酸素が不安定化し、電池寿命が短くなる。
解決策正極材料中のニッケルの一部を少量の**アルミニウム(Al)**に置き換える。
効果アルミニウムが酸素原子周辺の電子環境を改善し、構造を安定化させることで、酸素ホールの形成を抑制し、電池寿命を大幅に向上させる。
意義劣化の根本メカニズムを原子レベルで特定し、エネルギー密度と寿命を両立させる戦略を提示。熱暴走の軽減にもつながり、次世代バッテリーの安全性向上にも貢献。

🔎 関連情報の補足:次世代EVバッテリー開発競争と日本の技術

このPOSTECHの研究は、世界のEVバッテリー開発競争における主要な課題に取り組むものであり、特に日韓中の研究開発競争の中で重要な意味を持ちます。

1. 高ニッケル正極材(NCA/NCM)の重要性

  • 高エネルギー密度: EVの航続距離を左右するエネルギー密度は、正極材に含まれるニッケル(Ni)の比率を高めることで向上します。現在、実用化されているリチウムイオン電池の主流は、ニッケル、コバルト、マンガンを組み合わせた**NCM(ニッケル・コバルト・マンガン)や、ニッケル、コバルト、アルミニウムを組み合わせたNCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム)**です。
  • 「ハイニッケル」の定義: ニッケル含有率が80%以上(NCM811やNCAなど)のものを「ハイニッケル(高ニッケル)」と呼び、次世代EVバッテリーの主流となることが期待されています。

2. アルミニウム添加の先行研究と日本の貢献

  • NCA正極の先駆: 記事で解決策とされたアルミニウム添加は、まさに**NCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム)**の「A」として古くから知られています。NCAは、パナソニックとテスラ(当時)の提携で早くから実用化され、高エネルギー密度と安定性を両立させる技術として知られています。
  • 日本の技術的貢献:
    • 住友金属鉱山などは、ニッケル比率が高いNCA正極材の量産技術において世界的な優位性を持っています。アルミニウムを微量添加することで、ニッケルの比率を高めた際の熱安定性の低下構造安定性の低下を抑制する技術を確立しています。
    • POSTECHの研究は、このNCAの優位性の根拠を**「二重酸素リガンドホールの抑制」**という原子レベルのメカニズムで理論的に裏付け、構造安定化へのアルミニウムの役割をより深く解明した点に新規性があります。

3. 次世代バッテリーにおける安全性との両立

  • 熱暴走の問題: 高ニッケル正極は、容量低下だけでなく、熱安定性が低いという重大な課題を抱えています。高温下や過充電時に構造が崩壊しやすく、熱暴走(サーマルランアウェイ)を引き起こすリスクが高まります。
  • 今回の研究の貢献: アルミニウムによる構造安定化は、サイクル中の劣化を抑制するだけでなく、構造崩壊の引き金となる酸素の放出を防ぐため、熱暴走の抑制にも直接的に貢献し、EVバッテリーの安全性向上に寄与すると期待されます。

💡 まとめ

POSTECHの研究は、EV航続距離の鍵となる高ニッケル正極の容量低下のメカニズムを「酸素ホール」という観点から原子レベルで解明しました。そして、その解決策として、既存のNCA技術にも用いられてきたアルミニウム添加が、構造的安定化と熱安定性向上に極めて有効であることを示しました。この成果は、高エネルギー密度と長寿命、そして安全性を同時に実現する次世代EVバッテリー開発の設計指針として、二次電池業界全体に大きな影響を与えると期待されています。

出典:https://techxplore.com/news/2025-12-aluminum-stabilizes-high-nickel-cathodes.html

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