韓国科学技術院(KAIST)生命化学工学科のイ・ジヌ教授およびイム・ソンガプ教授の研究チームは、電極表面に厚さ15ナノメートルの超薄膜高分子層を導入することで、電池寿命を劇的に改善する技術を開発した。
1. 「負極のない電池」がもたらす革新
アノードフリーリチウム電池は、従来の電池で負極に使われていた黒鉛(グラファイト)などの材料を一切排除し、銅集電体のみで構成される。
- エネルギー密度の向上: 負極材の容積を省くことで、従来比で30~50%高いエネルギー密度を実現。
- コストと工程の削減: 材料費のカットに加え、製造工程が大幅に簡素化されるため、EV(電気自動車)などの価格競争力を高める鍵とされる。
2. 寿命問題を解決した「15nmの境界線」
これまで、アノードフリー電池は充電時にリチウムが直接銅の表面に析出するため、以下の深刻な問題を抱えていた。
- 電解液の急速な消耗: リチウムと溶媒が直接反応し、電解液を使い果たしてしまう。
- 不安定なSEI(界面保護膜): 不均一な膜が形成され、そこから針状の結晶(デンドライト)が成長し、電池が短絡(ショート)する。
これに対し研究チームは、iCVD(開始剤誘導型化学気相成長)法を用い、銅集電体の表面にわずか15ナノメートルの高分子膜をコーティングする手法を開発した。
3. 技術の核心:溶媒を排除し「塩」を呼ぶ
この15ナノメートルの薄膜は、電解液中の「溶媒」を電極から物理的に遠ざける一方、リチウムの「塩(Li-salt)」成分を優先的に分解させる役割を果たす。
- 安定した無機保護膜の形成: 塩の分解によって形成された頑丈な無機系保護層が電極を覆い、リチウムを平坦かつ均一に堆積させる。
- サイクル寿命の延長: 電解液の無駄な分解が抑えられ、充放電を繰り返しても性能が劣化しにくい構造を実現した。
4. 今後の展望
今回の成果は、高価で複雑な電解液の組成変更に頼らず、電極表面の「設計」のみで問題を解決した点に大きな意義がある。既存の製造プロセスへの適用も比較的容易であり、電気自動車やドローン、モバイル機器など、高容量・軽量化が求められるあらゆる分野での商用化に弾みがつくことが期待されている。


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