東京大学、東京科学大学、東北大学の研究グループは、固体電池の性能を左右する「イオンの集団運動(協奏的な輸送)」を世界で初めて可視化し、そのメカニズムを解明する新理論を開発しました。
1. 研究の背景と「協奏的な輸送」
次世代電池として期待される「全固体電池」の課題は、固体中ではイオンが動きにくいことです。しかし、優れた材料の中では、1つのイオンが動くと周囲のイオンが玉突きのように連鎖して動く**「協奏的な輸送(Concerted Transport)」**が起きています。 これまで、この「集団で動く様子」を具体的に描き出すことは、計算が極めて複雑(三体以上の相互作用)であるため非常に困難でした。
2. 渋滞学と流体力学の応用
研究グループは、この複雑な問題を解決するために、自動車の渋滞を解析する**「渋滞学」や、水の流れを解析する「流体力学」**の考え方を材料科学に導入しました。
- 手法: 分子動力学シミュレーション(Molecular Dynamics)で得られた膨大なデータに対し、イオンの動きを矢印(ベクトル)で表現。
- 解析: 渋滞学のように「ある車(イオン)が動いたことで、次の車が動けるようになった」という因果関係を、数学的な**「有向グラフ(Directed Graph)」**としてネットワーク化しました。
- 成果: これにより、何個のイオンが、どのタイミングで、どのように連動して「渋滞」を回避し、高速で移動しているのかを視覚的に捉えることに成功しました。
3. 発見された新理論
可視化されたネットワークから「イオンの見かけの移動距離」を算出する新しい理論式を構築したところ、統計力学の厳密な計算式(Green-Kubo公式)の結果と一致することが証明されました。 これは、「集団運動のパターン(形)」と「電池の性能(伝導度)」が1対1で結びついたことを意味します。
💡 関連情報の補足(用語・背景解説)
- 渋滞学(Jamology): 物理学の一分野で、人、車、あるいはアリなどの集団がどのように移動し、なぜ停滞するのかを数理モデルで解明する学問です。今回の研究は、原子スケールの「イオンの渋滞」をこの視点で捉えた点が画期的です。
- Na2Ni2TeO6: 今回モデルとして使われた二次元超イオン伝導体です。層状の構造を持っており、ナトリウム(Na)イオンが層の間を高速で移動する特性があります。
- Green-Kubo公式: 原子の微視的な動きから、電気伝導度などのマクロな性質を導き出すための物理学の伝統的で厳密な数式です。今回の新手法はこの公式と結果が一致したため、理論的な正しさが裏付けられました。
- 今後の展望: 「どのような構造を作ればイオンの連鎖反応が起きやすいか」という設計図(指針)が明確になります。これにより、リチウムイオン電池よりも安全で充電が速い「全固体電池」の早期実用化が期待されます。


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