高性能の代償:高ニッケル電池の急速劣化は添加剤CN4の「過度な結合」が根本原因

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韓国科学技術院(KAIST)の研究チームが、電気自動車(EV)に広く使われている高エネルギー密度の高ニッケルリチウムイオン電池が抱える急速な性能劣化(デグラデーション)の根本原因を特定しました。その原因は、安定性向上に使われてきた特定の電解質添加剤にあることを突き止め、解決に向けた新たなアプローチを提案しました。

1. 劣化の主犯:電解質添加剤「CN4(スクシノニトリル)」

従来の電池開発において、電池の安定性と寿命を向上させるために使用されてきた電解質添加剤である**スクシノニトリル(CN4)**が、実は高ニッケル電池の性能劣化の主な原因であることが、崔南順教授と徐東和教授らの共同研究によって明らかになりました。

要因詳細
CN4の構造2つのニトリル(-CN)構造を持つ。このニトリル構造は、炭素と窒素が三重結合した「フック状の構造」で、金属イオンと過度に強く結合する性質を持つ。
正極での挙動高ニッケル正極表面のニッケルイオン( Ni3+)にCN4が過度に強く付着。この結合が、正極表面に形成されるべき保護的な電気二重層(EDL)を破壊する。
正極の損傷充放電中に発生する正極の歪み(ヤーン・テラー歪み)に加え、CN4が正極から電子まで引き出すことで、正極構造が急速に損傷する。
構造変化ニッケル含有量の多いカソード表面をニッケル欠乏の異常層に変換し、安定した層状構造を異常な岩塩構造へと変化させる。

2. 劣化の連鎖反応(悪性の触媒)

CN4によって正極構造が破壊されると、さらに劣化を加速させる連鎖反応が引き起こされます。

  1. ニッケルイオンの溶出: 損傷した正極からニッケルイオンが電解液中に溶け出す。
  2. 負極への移動・蓄積: 溶け出したニッケルイオンが負極表面に移動し、そこに蓄積する。
  3. 触媒作用: この蓄積したニッケルが悪性の触媒として機能し、電解液の分解を促進。
  4. リチウムの浪費: 電解液の分解によりリチウムが浪費され、結果としてバッテリーの劣化がさらに加速する。

3. バッテリー開発への影響と今後の方向性

本研究は、CN4がLCO(コバルト酸リチウム)電池では有用であるものの、ニッケル比率の高い高ニッケル電池では構造崩壊を引き起こすという「二重の性質」を証明しました。

  • 分子レベルの解明: 充放電条件の単純な制御ではなく、金属イオンと電解質分子間の電子移動の実態を解明するという精密な解析に成功しました。
  • 新たな添加剤の開発: この知見に基づき、研究チームは今後、ニッケルと過度に結合しないように最適化された新しい電解質添加剤の開発を目指しています。
  • 次世代電池の実用化: 新しい添加剤の開発は、高ニッケル電池の寿命と安定性を劇的に向上させ、次世代の高容量電池の実用化に大きく貢献すると期待されています。

関連情報(高ニッケル電池の現状とLFPとの比較)

  • 高ニッケル電池の重要性: 高ニッケル電池(NCM: ニッケル・コバルト・マンガン、NCA: ニッケル・コバルト・アルミニウム)は、高いエネルギー密度を誇り、特に長距離航続距離を必要とする高級EVや高性能車に不可欠です。しかし、ニッケル比率が高くなるほど、熱安定性やサイクル寿命の維持が難しくなる課題がありました。
  • 競合技術(LFP)との比較: コストと安全性が優れているLFP(リン酸鉄リチウム)電池が台頭していますが、エネルギー密度が低いため、EVの航続距離は高ニッケル系に劣ります。本研究のように、高ニッケル系の寿命・安定性の課題が解決されれば、長距離EV市場における高ニッケル電池の優位性はさらに強固なものとなります。
  • 韓国の研究開発競争: 韓国は、LGエナジーソリューション、サムスンSDI、SK ONといった世界的なバッテリーメーカーを擁し、特に高ニッケル・高電圧技術でリードしています。KAISTのこの発見は、韓国バッテリー産業の競争力強化に直結する重要な成果となります。

出典:https://techxplore.com/news/2025-12-electric-vehicle-high-nickel-batteries.html

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