全固体電池(ASSB)は、高いエネルギー密度と本質的な安全性から、次世代の蓄電技術として期待されています。固体電解質(SE)の中でも、**ハロゲン化物固体電解質(HSE)**は、高いイオン伝導率と高電圧カソードとの安定性を兼ね備える有望な候補です。
しかし、実用化には以下の大きな課題がありました。
- リチウム金属アノード界面の不安定性: HSEに含まれる高原子価金属カチオン(例: Y3+)がリチウム金属と接触すると容易に還元され(例: Y0)、制御不能な導電性界面層(例: 金属Y、LiCl)が形成され、電池の劣化と短絡を引き起こします。
- 空気中での安定性の低さ: HSEは空気中の水分に非常に敏感で、水和物を形成するなど不可逆的な損傷を受け、加工・製造を複雑にしコストを増大させます。
- 高い外部圧力の必要性: 安定したサイクル特性と高い容量を達成するために、7~40 MPaという高いスタック圧力が必要でした。
🧪 提案された解決策と手法
本研究では、これらの課題を克服するため、HSE粒子にイオン伝導性と電子絶縁性を兼ね備えたポリマー複合材料を薄くコーティングする手法を提案しています。
- 対象材料:
- ハロゲン化物固体電解質 (HSE): Li3YCl6(LYC)
- ポリマーコーティング: ポリメタクリル酸メチル(PMMA)とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)の複合材料(PMMA : LiTFSI = 85 : 15 wt%)。得られた複合固体電解質をLYC PMMAと呼びます。
- 合成方法: アルゴン(Ar)雰囲気下、室温でメカノケミカル法(ボールミリング)によりLYC粒子にPMMA LiTFSIをコーティングしました。
- コーティング層の役割:
- 電子絶縁性: PMMAは電子絶縁性を持つため、LYCとリチウム金属の直接接触を防ぎ、Y3+からY0への還元などの界面の劣化反応を抑制します。
- 機械的柔軟性: 柔軟な層として機能し、電極と電解質の接触を均一化し、**低スタック圧力(5 MPa)**での動作を可能にします。
- 耐湿性: PMMAの疎水性により、LYCの空気安定性が向上し、常温での取り扱いと製造プロセス(ドライルーム不要)の簡素化に貢献します。
📊 電気化学的性能とメカニズム
1. リチウム対称セル(Li|SE|Li)
| セルタイプ | サイクル性能(0.5 mA cm-2) | 安定性 | 分極電位(5 MPa) |
| **Li | LYC | Li** | 約300サイクル後に短絡 |
| **Li | LYC PMMA | Li** | 1400サイクル以上の安定動作 |
- 低圧動作: LYC PMMAセルは、5 MPaという低いスタック圧力で最高の容量と最低の分極電位を示しました。これは、既存のHSEベースのセルで報告されている圧力(7~40 MPa)と比較して顕著な改善です。
- メカニズム解明: シンクロトロン放射光を用いたマイクロX線蛍光(uXRF)マッピング、硬X線吸収(hXAS)分析、およびX線光電子分光(XPS)分析により、LYC PMMAでは、サイクル後に分解生成物(LiClおよび金属Y)の形成が効果的に抑制されていることが確認されました。
2. 全固体電池(ASSB)フルセル(NMC811|LYC|LYC PMMA|Li)
高電圧カソードである非コーティング**LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(NMC811)**とリチウム金属負極を組み合わせたASSBセルは、二層固体電解質(カソード側: LYC、アノード側: LYC PMMA)構成で評価されました。
- LYC PMMAセル(1Cサイクル):
- 放電容量: 約125 mAh g-1を達成。
- クーロン効率(CE): 99.5%以上。
- 容量維持率: 室温で**100サイクル後も約99%**を維持。
- LYC単独セル(1Cサイクル):
- 初期CE: 75.7%。
- サイクル性能: 9サイクル後に充電曲線が上限電圧に到達できず、急速な容量劣化と分極の増加が見られました。
🌟 結論と意義
本研究は、PMMAコーティングという簡便かつスケーラブルな手法が、HSEにおける主要な課題を克服するための有効な戦略であることを示しました。
- 界面安定性の向上: PMMAの電子絶縁性により、LYCとリチウム金属間の有害な還元反応が効果的に抑制され、長期にわたる安定したサイクル特性が実現しました。
- 加工性と製造性の改善: PMMAの疎水性により、HSEの空気安定性が向上し、ドライルームなしでの取り扱いと製造が可能となり、コスト削減に繋がります。
- 低圧動作の実現: 柔軟なポリマー層が均一な接触を可能にし、**低いスタック圧力(5 MPa)**での安定したセル動作を可能にしました。
このアプローチは、高エネルギーで費用対効果の高いASSB技術を実現するための、現実的な道筋を提供するものです。
出典:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2025/eb/d5eb00134j


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