リチウムイオン電池の次世代正極材料として期待されるLiMn0.6Fe0.4PO4(LMFP)を用いたパウチセルの劣化メカニズムと、その解決策となる電解液エンジニアリングに関する最新の研究成果をまとめました。
1. 研究の背景と目的
LMFPは、従来のLFP(リン酸鉄リチウム)にマンガン(Mn)を加えることで、高い安全性と熱安定性を維持しつつ、エネルギー密度を10から20%向上させた有望な材料です。しかし、以下の課題により実用化が制限されてきました。
- マンガンの溶解: 充放電中にMnが電解液に溶け出し、負極(グラファイト)側に堆積して劣化を早める。
- 界面の不安定性: 電極と電解液の境界(相間)で副反応が起こり、抵抗が増大する。
本研究では、電解液添加剤(VCおよびDTD)がこれらの故障経路をどのように抑制するかを解明しました。
2. 実験方法と電解液の構成
250mAhのパウチセル(LMFP/グラファイト)を用い、以下の3種類の電解液を比較評価しました。
- CTRL(対照): 標準的な炭酸塩電解液(LiPF6 / EC : EMC : DMC)。
- CTRL + 2VC: 2重量%のビニレンカーボネート(VC)を添加。
- CTRL + 2VC1DTD: 2重量%のVCと1重量%の1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(DTD)を併用。
3. 主要な研究結果
界面相(SEI/CEI)の形成とガス抑制
- 優先的還元: VCとDTDは、溶媒(EC)よりも先に還元反応を起こし、負極(SEI)と正極(CEI)に強固な保護膜を形成します。
- ガス発生の低減: 添加剤なしのCTRLでは多量のガスが発生(7.34 mL/Ah)しましたが、添加剤入りでは大幅に抑制(0.23から2.64 mL/Ah)されました。
サイクル特性の向上
40℃での長期サイクル試験において、添加剤の相乗効果が確認されました。
- 容量保持率: CTRLセルが165サイクルで容量80%まで低下したのに対し、VC + DTD併用セルは610サイクル後も約85%の容量を維持しました。
- インピーダンス抑制: インピーダンス(抵抗)の増加は主に正極側で起こりますが、VC + DTDの添加によりその増加率が最小限に抑えられました。
マンガン溶解の抑制メカニズム
- µXRF分析: 負極へのMn堆積量を測定した結果、添加剤入り電解液はMnの溶解速度を約半分に抑制していることが判明しました。
- DFT(密度汎関数理論)計算: 負極での還元によって生じる「リチウムメトキシド(MeOLi)」などのアルコキシド種が、正極表面のMnを抽出する役割を果たしていることを原子レベルで解明しました。添加剤はこの有害な種の生成を抑える役割を担っています。
4. 結論
本研究により、LMFP/グラファイトセルの故障は、主に不適切な界面相を通じた「Mnの溶解」と「リチウム在庫の損失」に起因することが明確になりました。 VCとDTDの二重添加は、正極・負極の両方に弾力性のある保護膜を形成し、電解液の分解と金属の浸出を劇的に抑制します。これは、安価で安全なLMFP電池を超長寿命化するための実用的かつ強力な手法です。
技術用語・単位(プレーンテキスト)
- LMFP: LiMn0.6Fe0.4PO4
- VC: Vinylene carbonate
- DTD: 1,3,2-dioxathiolane-2,2-dioxide
- SoH: State of Health(健全性)
- CEI / SEI: Cathode/Solid Electrolyte Interphase(正極/固体電解質界面相)
- DFT: Density Functional Theory(密度汎関数理論)
- mAh/g: ミリアンペア時毎グラム(比容量の単位)
出典:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2026/eb/d5eb00228a


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