世界貿易の基盤である海運業界は、世界の温室効果ガス排出量の約3%を占めており、持続可能な成長に向けた抜本的な変革が求められています。国際海事機関(IMO)は、2008年比で2050年までに排出量を50%削減する目標を掲げており、これに対処するため、海運業界は船舶用バッテリーの導入に大きな可能性を見出しています。
船舶用バッテリーは、推進システム、補助電源、バックアップ電源など多様な用途に使用され、海運の脱炭素化と効率向上における「ゲームチェンジャー」として期待されています。
🔋 船舶用バッテリーがもたらす変革
船舶用バッテリーは、従来の燃料燃焼を削減することで、以下の効果をもたらします。
- 排出量の削減: 直接燃料燃焼を削減し、温室効果ガス(GHG)と排出量を低減します。
- 騒音の低減: 運航時の騒音レベルが著しく低下し、より静かな環境を実現します。
- 運用効率の向上: メンテナンスコストの削減や、予期せぬダウンタイムの回避に貢献します。
革新的な導入事例と製品
- COSCO Shipping Development(中国): 2023年5月に世界初のバッテリー駆動コンテナ船(700TEU型)を進水。従来の燃料船と比較して1日あたり約32トンの排出量を削減し、排出ガスゼロ、騒音ゼロで運航しています。
- EnerSys: NexSys PURE TPPL(薄板純鉛)バッテリーを発売。給水が不要で、予期せぬ運用コストとダウンタイムを削減し、急速充電(2時間未満)とエネルギー密度向上を実現。
- ルクランシェ: マリンラックシステム(MRS)はリチウムイオン電池を使用し、船舶の化石燃料消費量を40%削減可能。
🚢 アジア太平洋が牽引する海洋電化
船舶用バッテリー市場は、地理的および用途別に以下の特徴を示しています。
| 項目 | 詳細 |
| 地域別市場シェア | アジア太平洋地域が世界の船舶用バッテリー市場の**約60%(金額ベース)**を占め、海洋電化の主要拠点となっています。 |
| 需要の背景 | 中国や東南アジアの近海・沿岸海運が固定航路で運航されており、バッテリー統合に最適です。中国は新造船受注残の62%以上(2025年見込み)を占め、韓国、日本がこれに続きます。 |
| 政府とIMOの規制 | IMOの脱炭素化目標に沿い、各国政府は主要港での排出規制を厳格化し、ハイブリッドおよびバッテリーソリューションの利用を促進しています。 |
| 欧州市場 | 厳格な排出規制とIMO目標により、欧州も市場の約13%を占めており、着実に成長しています。 |
| 主要な用途 | **貨物船(ばら積み貨物船、石油タンカー、コンテナ船)**が世界の船舶積載量の88%を占め、今後も船舶用バッテリーの最大の消費国となる見込みです。 |
🔬 バッテリー技術と市場の課題
主流技術と進化
- 鉛蓄電池: 現在、船舶用バッテリーの85%以上が鉛蓄電池(特にVRLA-AGM)で製造されており、その信頼性、コスト効率、高い始動電流能力から、補助サービスやエンジン始動に主流です。
- リチウムイオン電池: 優れたエネルギー密度と最小限のメンテナンスで普及が進んでいますが、現時点ではコスト面で鉛蓄電池に及びません。
今後の展望と課題
- IMOの目標達成: 政策措置がなければ、海運のGHG排出量は2050年までに50%増加する可能性があり、IMOのネットゼロ目標達成には、CO₂削減の60%以上を代替燃料に転換する必要があります。
- バッテリーの役割: バッテリーは、短距離航路やハイブリッドシステムに最適ですが、大型船舶の完全電動化はまだ非現実的です。
- サプライチェーンの課題: 原材料不足、生産のボトルネック、充電インフラの不足に加え、米国の輸入関税(リチウムイオン電池で104%)などのコスト上昇が市場へのアクセスを妨げています。これに対応するため、リチウム空気やリチウム硫黄などの代替バッテリー技術が研究されています。
世界の海洋バッテリー市場は、2024年の約5億500万米ドルから2030年には6億1,500万米ドルに急増すると予測されており、持続可能な海運を実現するための重要な推進力となるでしょう。


コメント