分子動力学シミュレーションが示した、高安定・高伝導固体電解質設計のための普遍原理

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研究の概要

全固体電池などの次世代エネルギー貯蔵技術において、安全性と高性能を両立する固体電解質材料の開発は重要な課題です。従来、固体中のイオン伝導性を高めると、構造の安定性が低下するという根本的な問題がありました。

東京都立大学の栗田玲教授らの研究グループは、原子がランダムに分布したランダム置換結晶に注目し、リチウムイオンの挙動を分子動力学シミュレーションで解析しました。

その結果、リチウムイオン(Li+)濃度がある臨界値(約20%)を超えると、リチウムイオン同士がネットワークを形成し、導電率が急激に向上することを発見しました。この臨界値は、パーコレーション理論が予測する「連結の臨界点」と一致しています。

このメカニズムにより、結晶構造を壊すことなく、液体電解質に匹敵する導電率(6.8 x 10^-3 S/cm)を実現可能であることが示されました。さらに、結晶の方向に依存しない等方的なイオン伝導が確認されました。

本研究は、固体電解質材料において「高安定性」と「高伝導性」という相反する性質を調和させる新しい設計指針を提示するものです。


ポイント

  1. ランダム置換結晶中で、イオンがネットワーク状に連結すると導電率が急激に上昇することを初めて明らかにしました。
  2. イオン濃度が約20%を超えると導電経路が結晶全体に広がることを確認し、この臨界値がパーコレーション理論の臨界点と一致することを示しました。
  3. 結晶構造を保持したまま液体並みの導電率を実現可能であり、従来両立が困難だった安定性とのトレードオフを打破しました。
  4. このイオンネットワークの原理は、リチウム系に限らず他のイオン結晶や高エントロピー材料にも拡張可能で、普遍的な材料設計原理として期待されます。

研究の詳細:イオンネットワークとノックオン機構

  • 解析対象: NaCl型構造をもつ LixPb1-2xBixTe などのランダム置換結晶。
  • 導電率の急上昇: シミュレーションの結果、Li+ 濃度が約20%を超えると、イオンがネットワークを形成し、局所的な運動が協調的に結びつくことで導電率が急激に上昇しました。
  • 安定性の維持: ネットワーク形成後も格子構造は安定に保たれ、熱的・化学的安定性を損なうことなく高伝導性を実現しています。
  • ノックオン機構: 個々のイオンの動きを可視化すると、隣接する Li+ イオンを押し出すように連鎖的に移動する**「ノックオン機構」**という協調運動が確認されました。これは、あるイオンの移動が隣のイオンの移動を誘発する“ドミノ効果”のような動きで、効率的な伝導経路を形成しています。

研究の意義と波及効果

本研究は、ランダムな結晶構造の中にイオン同士が協調して動くネットワーク構造が自発的に生じることを明らかにし、これまで両立が困難だった高伝導性と高安定性を同時に実現する新原理を示しました。この原理は高い汎用性を持ち、次世代エネルギー材料、特に全固体電池の開発に新たな展開をもたらすことが期待されます。


用語解説(抜粋)

  • 全固体電池: 電解質に固体材料を用いた電池。高い安全性と長寿命が期待される。
  • ランダム置換結晶: 結晶中の原子やイオンを別のものにランダムに入れ替えた結晶。無秩序さが特徴。
  • パーコレーション理論: 多数の要素がランダムに配置された系で、全体が連結するために必要な濃度(臨界点)を扱う物理・数学の理論。
  • ノックオン機構: イオンが移動する際に、隣の位置にあるイオンを押し出すようにして次々と動かす連鎖的な移動。

出典:https://www.47news.jp/13438354.html

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