**シリコン(Si)**は、現行の最先端負極材料であるグラファイト(理論容量 372 mAh g⁻¹)と比較して約10倍の理論容量(3,579 mAh g⁻¹)を持つため、**高エネルギーリチウムイオン電池(LiB)**の実現に向けた最も有望な次世代負極材料です。
しかし、実用化の最大の課題は、充放電サイクル中の**大きな体積膨張(リチウム化時に最大約400%)**による急速な容量劣化です。この体積変化は、粒子内部の破壊、電極構造の崩壊、そして継続的な固体電解質界面(SEI)の形成を引き起こします。現在、グラファイト/Si複合電極におけるSi含有量は、サイクル寿命を確保するために約10 wt%以下に制限されています。
本研究は、マルチモーダルなオペランドイメージング技術(光学顕微鏡、シンクロトロンX線CT)と高度な特性評価(DRT、DVC)を組み合わせることで、これらの劣化メカニズムを多層的・多次元的に解明し、エビデンスに基づいた高性能電極設計を提案することを目的としています。
主要な知見:電気化学機械プロセスの解明
研究では、グラファイト/Si複合負極の劣化を加速させる、以下のマルチスケールな電気化学機械プロセスを解明しました。
1. Si粒子レベルの知見(ナノ多孔性の影響)
- ナノ多孔性構造の重要性: Si粒子のサイクル安定性は、粒子内のナノスケール多孔性構造に大きく依存します。
- 均質な多孔性(点状/管状): 等方的な歪みを示し、構造的完全性を維持しやすく、クラックが発生しにくい。
- 平面的で不均一な多孔性: 異方的な膨張と早期の亀裂を引き起こす。
- 推奨SOC: 構造的完全性を維持し、粒子の損傷を制限するためには、最大充電状態(SOC)を**60〜70%**に制限することが推奨されます。高SOCで体積膨張が緩和されず、亀裂が発生するためです。
2. 電極レベルの知見(微細構造と歪み)
- CBD(カーボンバインダードメイン)の膨張: 導電助剤とバインダーで構成されるCBDが、リチウム化中に約20%〜25%膨張し、電極全体の膨張に大きく寄与します。
- 多孔性の損失: 高SOC(> 50%)では、CBDの膨張や活物質の膨張により電極の多孔性が著しく減少し、電解質の輸送を阻害し、レート特性とSi利用率を低下させます。
- 不均一な歪み: Si粒子はグラファイト粒子(歪み約0.2)よりもはるかに大きな局所歪み(0.75〜1.5)を示し、相間で不均一な歪みが存在します。
- 電流の再分配とリチウムめっき: 活性なSi粒子の封入や損失によって、近くのグラファイト粒子に過剰な充電電流が流れ、リチウムめっきのリスクが高まります。
3. リチウム化の不均一性
- 電子/イオン輸送の競合: Si粒子のリチウム化速度は、電子輸送とイオン輸送のバランスに依存します。
- 高い接触面積: 広いSi-グラファイト接触面積は電子輸送を促進しますが、過度なグラファイトによる**密閉(encapsulation)**はイオンのアクセスを妨げ、Siのリチウム化を遅らせる可能性があります。
- 最適な接触比: 効率的なリチウム化のためには、Siとグラファイトの表面接触比が0.4〜0.8が最適であるとされています。
エビデンスに基づいた設計:二層(DL)複合電極の提案
上記の課題(CBD膨張、多孔性損失、Si損失による過充電、Siのリチウム化遅延)を克服するため、従来の均質な電極設計ではなく、微細構造と組成をカスタマイズした二層(DL)グラファイト/μ-Si複合電極が提案されました(Si総含有量35 wt%)。
DL電極の構造と利点
| 層 | 構成要素 | 特徴 | 役割と利点 |
| 上層 (セパレーター側) | グラファイトリッチ、低CBD、多孔質 | Liイオンの高速輸送経路を維持 | Siの膨張を緩衝するバッファー層として機能し、電解質の深部へのアクセスを維持。グラファイトの過充電を緩和。 |
| 下層 (集電体側) | Siリッチ、高CBD | 堅牢な電気的接触を確保 | 高いCBD含有量により、Si粒子が膨張しても電気的接続性を維持。 |
性能評価
DL電極は、均質参照電極(HM電極)と比較して、非水リチウム金属コインセル構成で優れた性能を示しました。
- 容量保持率: 16サイクル後の容量保持率は、DL電極が**72%であったのに対し、HM電極は15%**と大幅に低くなりました。
- 分極とインピーダンス: DL電極は分極の増加が少なく、EIS(電気化学インピーダンス分光法)測定においても総インピーダンスが安定しており、HM電極で観察された容量低下と分極の増加を伴うインピーダンスの急激な上昇が抑制されました。これは、電気接触の改善と電解質アクセス性の向上によるものです。
結論
本研究は、グラファイト/μ-Si複合電極における劣化メカニズムをマルチスケールで解明し、得られた知見に基づき、大幅にサイクル性能が向上したDL複合電極というエビデンスに基づいた設計概念を提示しました。
この概念実証は高エネルギー密度LiBの実現に向けて有望な結果を示していますが、実用的な大面積リチウムイオンセル構造におけるさらなる最適化と材料のスケーラビリティ評価が今後の課題として挙げられています。


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