次世代のリチウムイオン電池(LIB)に向けた研究は、高価で供給リスクのある**ニッケル(Ni)とコバルト(Co)の含有量を減らし、安価で豊富なマンガン(Mn)を主成分とすることに焦点を当てています。本研究は、この課題に対する画期的な解決策として、「準秩序結晶構造(Quasi-Ordered Crystal Structure)」を持つ新しいMnリッチ層状カソード(QO-NCM45)**を提案しています。
この新しいカソードは、Niリッチカソードの課題であった高いエネルギー密度と優れたサイクル安定性を両立させ、さらに熱安全性も大幅に向上させることを実証しました。
1. Mnリッチカソード開発の背景と重要性
- 原材料の供給リスクと環境負荷: EVの急速な普及により、LIBの主要原材料であるNiとCoの需要が急増し、将来的な供給不足と価格高騰が懸念されています。また、Niの採掘は地下水汚染などの深刻な環境問題を引き起こします。
- パラダイムシフトの必要性: 持続可能なLIB製造のためには、Coの除去に加えて、Ni含有量を減らすことが不可欠です。安価で低毒性、環境にも優しいMnを豊富に含むカソードへのパラダイムシフトが求められています。
2. QO-NCM45の革新的な構造と「歪みのない」特性
研究で提案されたQO-NCM45(Li Ni0.45 Co0.1 Mn0.45 O2)は、従来の層状カソードには見られなかった独特の準秩序結晶構造を有しています。
- 準秩序構造: この構造は、リチウムイオン と遷移金属(TM)イオンが特定の比率(1:2)で交互に配列する、二種類の混合陽イオン秩序配列を持つナノスケールのドメインネットワークを形成しています。
- 歪みのない特性(Strain-Free Feature): 準秩序構造により、脱リチウム化(充電)中の結晶構造が安定化され、格子歪みが最小限に抑制されます。
- c軸変化の抑制: 4.6 Vで完全に充電された状態でも、c軸格子定数の変化はほぼゼロ(0.36%)に抑えられ、Niリッチカソードで見られる**急激な格子収縮(最大-8.0%)**が回避されます。
- 機械的安定性: この歪みのない特性は、充放電中のカソードへの機械的ストレスを最小限に抑え、長期サイクル後も粒子が粉砕されず、初期の球形を維持します。これは特に、固体電池で問題となる電極と固体電解質の接触損失を防ぐ上で重要です。
3. 優れた電気化学的性能と熱安全性
QO-NCM45は、Niリッチカソードの課題であった安全性と高電圧での安定性を大幅に改善しつつ、高性能を維持しています。
- 高容量と高電圧: QO-NCM45は、Ni含有量がNCM80よりも**35%も少ない**にもかかわらず、最大**4.6 V**で動作し、NCM80に匹敵する**可逆容量(224.7 mAh}/g)**と、より高いエネルギー密度(879Wh/kg)を実現しました。
- 長期サイクル安定性: グラファイト負極を用いたポーチ型フルセル試験(4.4 V、45 ℃)において、1,000サイクル後も初期容量の85.5%を保持しました。これは、EVメーカーが保証するバッテリー寿命の閾値(約80%)を満たしており、約20年のバッテリー寿命に相当する驚異的な耐久性を示しています。
- 優れた熱安全性: 高いMn含有量と準秩序構造により、熱暴走反応の開始温度がNCM50よりも25℃以上遅延し、放出される熱もNCM50のわずか**35%**に減少しました。この比較的低く幅広い発熱ピークは、急速な熱伝播のリスクを効果的に排除します。
4. 結論:持続可能なEVの実現へ
QO-NCM45カソードは、マンガンリッチ化と準秩序結晶構造という二つの主要な革新により、持続可能性と高性能を両立させた新しいタイプの層状カソードです。
この技術は、ニッケル需要増加に伴う供給リスクと環境問題を軽減し、高容量、高電圧、優れた熱安全性という実用化に不可欠な特性を提供します。MnリッチなQO-NCMおよびQO-NMカソードは、安全性の高いLIBの持続可能な生産と、EVの長期保証を可能にするための重要な一歩となります。
Park, GT., Park, NY., Ryu, JH.
et al. Zero-strain Mn-rich layered cathode for sustainable and high-energy next-generation batteries.
Nat Energy (2025). https://doi.org/10.1038/s41560-025-01852-3


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